高校野球と球数制限

こんにちは、大会前から金足農業を応援してたけどまさかあそこまで勝ち進むと思ってなかったかつまたです。

 

「行っても3回戦とかで負けるだろうし応援してるとか言わなくていいや」とか思ってたらあれよあれよと決勝進出。

その頃にはすっかり金足農業フィーバーが起こり、「今更応援してるとかいうとミーハーっぽいしなあ……」と変な見栄を張って言い出せなくなりました。大会が終わったので、そろそろ意地を張らずに言っちゃおうと思った次第です。

 

さて、その夏の高校野球甲子園大会が、昨日8/21に幕を閉じました。

結果は大阪桐蔭高校が史上初の同一校による2度目の春夏連覇を達成。金足農業は同校初、秋田県勢としても第1回大会以来103年ぶりの準優勝を果たしました。

両校ともに素晴らしいチームだったと思います。おめでとうございます。

 

最近少し涙脆くなったかつまたは、高校球児の全力プレーを見ているだけで感動し、少し目が潤んでしまいました。

 

さて、今回の記事はその高校野球で毎年のように取り上げられるある問題についてです。

 

その問題とは、「球数制限」。

松坂大輔さんや斎藤佑樹さん、最近では安楽智大さんなど、甲子園では1人のエースが連投し、べらぼうな球数を投げることがままあります。

そして今大会でも、金足農業の吉田輝星投手が秋田大会から1500球以上、甲子園だけでも881球を投げたとして問題にされています。

 

投球過多は選手寿命を縮める、故障のリスクを増やすなどと様々に批判をされ、国際大会などでは球数制限が設けられることが多くなってきています。

"将来有望な選手を潰さないために、甲子園にも球数制限が必要だ"____という言説は、最近とみに大きくなってきている気がします。

 

しかしながら、僕は絶対にこの球数制限を導入してはいけないと思います。

 

理由は色々とありますが、大まかに言うと、

①格差拡大

②リスクマネジメントの妥当性

③高校生の「商品化」 

の3つです。やや重複する部分もあるかもしれませんが、それぞれ説明していきたいと思います。

 

まず①格差拡大について。これはよくある批判なのでさらっと流していただいて構いません。

球数制限を設ける場合、現実的には1試合80球〜100球を目安に交代、70球投げたら中2日……とかそういった制限を設けることになると思います(数字は適当です)。

詳しい数値は球数制限ガイドラインとかでググればいくらでも出てくると思うので、興味ある人は調べてみてください。

 

これは1人でマウンドを守り抜くことができる球数ではありません。というかそれができたらあんまり意味無いし。

ということは、必然的に2人以上の投手を揃えなくてはいけないわけです。

こうなると圧倒的に選手を全国から揃えられる私学が有利です。強豪校とそれ以外の学校の格差が拡大し、甲子園出場校、そして上位進出校がかなり固定化されることもありうるでしょう。

 

別に僕は野球留学がダメと言うつもりは毛頭ありません。親元を離れ、厳しい環境で野球に打ち込む姿勢は高校生ながら尊敬に値すると思います。

ただ、やはり全てのチームに可能性ができるだけ公平に与えられるべきだと思います。ルールの枠組みから、こうした格差を助長するような取り組みはいかがなものかと思います。

 

次に②リスクマネジメントの妥当性について。

球数制限は、「有望な投手の将来を守るため」とされていますが、少しここで考えて欲しいのです。

「有望な投手」は年に何人いるでしょうか?その投手が実際にプロで大活躍する可能性は?投球過多に陥って将来を棒に振る可能性は?

 

そもそも一生野球で食べていける投手なんて、年に1人いるかいないかです。社会人野球を含めても2桁に届くか怪しいくらいでしょう。そしてそんな選手が、自分以外に投手のいないチームにいて、実際に甲子園で連戦連投になることはどれほどの確率でしょう?

 

今大会では金足農業の吉田投手や済美の山口投手が問題になりましたが、そもそも問題になったのがたった2人。

この2人がどちらもプロに行き、球界を代表するエースになる可能性はどのくらいでしょうか?

 

もちろん2人とも素晴らしい投手でしたし、2人の将来が大いに楽しみなことは間違いありません。

しかしプロは厳しい世界です。某在阪球団では甲子園春夏連覇した超大型右腕が伸び悩み2軍暮らしなんてこともあるくらいです。どれだけプロで通用するか、どれだけの成績を残せるかなど、高校生の時点で判断できることではないはずです。

 

もちろん、「将来にプロという可能性がある以上、そこに挑戦できる状態を整えるべきだ」という批判もあるでしょう。しかし、その「プロという可能性」は、「甲子園で優勝する」という可能性に絶対的に優位に立つものでしょうか?

正直、これに客観的に優劣をつけるのは不可能だと思います。あくまでそれは選手が選択すべきことであって、外野が決めつけることではないでしょう。

 

要するに、「将来のために甲子園では投げさせない」という論理は、「将来幸せになるために、今は遊ぶの我慢しなさい」的な、大人の押し付けがましさを感じずにはいられないのです。

 

③高校生の「商品化」

僕が球数制限に反対する1番の理由がこれです。少し②と被る内容もあるかもしれませんし、やや感情的な主張もありますが、説明していきます。

 

甲子園で戦う高校球児は、決してプロ野球選手ではありません。彼らは野球選手である以前に高校生なのです。

 

プロ野球選手なら身体が資本ですから、故障を未然に防ぐリスクマネジメントは必要不可欠でしょう。

しかし彼らは高校生なのです。高校生活が人生においていかに大事で、かけがえのないものであるかは言うまでも無いでしょうが、彼らはその高校生活のほとんどを野球に捧げてきたのです。

坊主頭にしてオシャレも我慢し、自由に遊べる時間も少なく、寝る間を惜しんで練習する。そんな風に、青春のかけがえない時間を捧げて野球に打ち込んで、やっと甲子園に辿り着いたのです。

 

まあ、最近では理不尽に厳しい上下関係や、とにかく長い時間たくさん練習するといった旧態依然な部活のあり方は見直されつつありますが、それでも高校生活の大部分を野球に注いできたことは間違いないでしょう。

そんな風に、高校生活そのものとも言える野球を全力でやりきる機会を奪うのは決して褒められたものとは思えません。

 

球数制限は、将来有望な投手を守るため____という大義名分を掲げていますが、では野手はどうなのでしょうか。プロに行かない、大部分の高校球児はどうなのでしょうか。そしてそもそも、「将来有望なプロ候補」である以前に、高校生であり高校球児であるその投手はどうなのでしょうか。

彼らが高校生活をかけて打ち込んできたものを、「将来の可能性」という不確かなもので縛り、その全身全霊のプレーの機会を奪うことになってしまうことは、仕方のないことなのでしょうか。

 

①の格差拡大の問題はここにあります。

できるだけ多くの高校生が、できる限り全力で野球に打ち込める環境を作るうえで、甲子園に行ける、甲子園で勝てる学校が固定化されることは望ましくないからです。

 

乱暴な言い方をすれば、高校生は怪我で野球ができなくなっても命を失うわけではありません。野球ができなくなっても、幸せな人生を送る方法はいくらでもあるでしょう。

球数制限を唱える人たちは、高校生を「"プロ野球選手候補"という商品」として見ているように思えてなりません。

高校球児たちには、野球が上手い以外にも素晴らしい点が沢山あるはずです。2年半の部活の中で培うのは野球の技術だけではないと、僕自身高校野球をそれなりに真剣にやった身として実感します。

 

高校生活をかけて、多くのものを学んだ野球を通じて、相手と全力で競い合う場が甲子園でしょう。そこに「プロとしてお金を稼ぐ可能性」なんていう大人の事情を持ち込むべきではないと、強く思います。

 

 

 

さて、ここまで球数制限に反対する理由を長々と書いてきましたが、だからといって僕は怪我するまで投げさせればいい、と思っているわけではありません。怪我はしないほうが良いに決まっています。ただ、その方法として球数制限は不適切ではないか、と言いたいのです。

例えば過密日程の緩和などは球数制限とともに長く議論されています。プロ野球開催や始業式が早い地域との兼ね合いもありますが、決して実現不可能ではないでしょう。

また、指導者側の対応も重要になるでしょう。済美の山口投手は、監督に「いけるか?」と何度も聞かれたが、「無理だ」とは答えられないと語っていました。プロなど、上のステージを目指す選手が異常を感じた時に、自分から「SOS」を発信できる関係性、そしてその異常にいち早く気づき対処してあげられる力が、指導者には求められるでしょう。

今大会の金足農業の中泉監督は、そういった面でも素晴らしかったと思います。吉田投手に頼らざるを得ないチーム事情の中、「お前の野球人生はここで終わりじゃないからしっかり考えなさい」と吉田投手に先発回避の余地を与え、そして決勝で選手たちから吉田投手の交代をお願いされて、それを認め交代させました。勝つためにベストを尽くしながらも、選手の意見を尊重し、将来まで配慮する、素晴らしい指導者だったと思います。

 

まだまだ高校野球に関する議論は尽きませんが、これからも野球を愛する高校生たちが全力でプレーできるような、そんな制度改革を望んでいます。

 

 

 

 

〜P.S.〜

某在阪球団の甲子園で春夏連覇した超大型右腕の復活も望んでいます。やっぱり彼が甲子園のマウンドで抑える姿を見たいです。